CPU グリス(サーマルペースト)実測ベンチマーク 2026年版:Kryonaut / PTM7950 / MX-6 / TFX / 液体金属 Conductonaut を Ryzen 9 9950X3D と Core Ultra 9 285K で CPU 温度・ファン騒音・寿命で比較
CPU グリスは 2026 年になっても「Kryonaut と MX-6 のどっち?」で迷う人が多いですが、答えは CPU 世代・冷却器の種類・塗り直し頻度でベストが変わります。Ryzen 9 9950X3D と Core Ultra 9 285K に対して Kryonaut / Kryonaut Extreme / PTM7950 相変化パッド / Arctic MX-6 / Thermalright TFX / 液体金属 Conductonaut を空冷 & 360mm AIO で塗り替えて CPU 温度差・ファン騒音・数ヶ月後の劣化を実測し、用途別のベストを整理します。
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結論:2026 年時点で「迷ったら PTM7950 相変化パッド」が最も汎用性の高い正解です。塗り直し不要で 3〜5 年持ち、温度も Kryonaut と同等かわずかに上回ります。ただし例外があります。年 1 回塗り直すのが苦にならない自作派なら Kryonaut / Kryonaut Extreme、コスト最優先なら Arctic MX-6、極限 OC で 10℃ 以上のマージンが欲しい上級者だけが液体金属 Conductonaut を検討してください。同一 CPU / 冷却器で塗り替えたときの温度差は 6〜14℃ の幅に収まり、体感差は「塗り直し頻度と塗りやすさ」の方が大きく効きます。
CPU グリスは PC パーツの中で最も安価で、最も更新頻度が低く、最も「なんとなくの銘柄選び」で放置されやすい部品です。とはいえ Ryzen 9000 / Core Ultra 世代は TDP が上がり、Cinebench R23 30 分ループで CPU パッケージ温度が 90℃ に張り付く時代です。ここでグリス側で 5℃ 落とせるかどうかは、ファン騒音・サーマルスロットリング・電源余裕に直接効きます。本記事では 代表的な 6 種類のグリス を、iris-lab の Ryzen 9 9950X3D と Core Ultra 9 285K に塗り替えて実測しました。
CPU クーラー本体の選定に迷っている方は「CPU クーラー選び方&比較 2026年版」、静音構築の視点は「静音PC構築ガイド 2026年版」、エアフロー全般は「PC ケースのファン配置とエアフロー設計 2026年版」、ケースファン単体は「ケースファン選び方&比較 2026年版」で扱っています。本記事は グリス単体の実測 に絞ります。
6 種類のグリスと選定理由
比較対象は次の 6 種です。市場シェア・話題性・価格帯・技術的な立ち位置の違いをカバーする組み合わせを選びました。
| グリス | 種類 | 熱伝導率(公称) | 導電性 | 価格帯 | 立ち位置 |
|---|---|---|---|---|---|
| Thermal Grizzly Kryonaut | 標準グリス | 12.5 W/m·K | なし | 1,500〜2,500 円 / 1g | 定番、リファレンス |
| Thermal Grizzly Kryonaut Extreme | 高性能グリス | 14.2 W/m·K | なし | 3,500〜5,000 円 / 2g | Kryonaut の OC 向け強化版 |
| Thermal Grizzly PhaseSheet PTM7950 | 相変化パッド | 8.5 W/m·K(表記) | なし | 1,500〜3,000 円 / シート | 塗り直し不要、3〜5 年寿命 |
| Arctic MX-6 | 標準グリス | 7.5 W/m·K | なし | 1,200〜2,000 円 / 4g | コスパの新定番、MX-4 後継 |
| Thermalright TFX | 高性能グリス | 14.3 W/m·K | なし | 1,500〜2,500 円 / 2g | コスパ + 高性能の折衷 |
| Thermal Grizzly Conductonaut | 液体金属 | 73 W/m·K | あり | 2,500〜4,000 円 / 1g | 上級者専用、IHS 侵食リスク |
Thermal Grizzly Kryonaut は 2018 年頃から続く定番で、熱伝導率と塗りやすさのバランスが良い基準となる存在です。「他のグリスの評価はまず Kryonaut を基準に語られる」と言えるくらい浸透しており、リファレンスとして必ず入れました。
Kryonaut Extreme は Kryonaut の高熱伝導率版で、OC 用途向けに設計されています。粘度がやや高く塗りにくいものの、90℃ を常時超える環境では Kryonaut より 1〜2℃ 良い数字が出ます。
PhaseSheet PTM7950 は 2024 年頃から急速に浸透した相変化パッドです。常温では固体のシート状ですが、CPU が 45℃ 前後を超えるとゲル状に変化し、加熱と冷却を繰り返しても劣化しにくい特性があります。Amazon で「PTM7950」と検索すると Thermal Grizzly 純正品のほかに CSGR / 一般名メーカーの相変化パッド も出てきます。純正品にこだわらない選択肢もありますが、本記事では純正品(Thermal Grizzly PhaseSheet)を測定対象としました。
Arctic MX-6 は Arctic MX-4 の後継で、コスパ最優先の実用グリスです。4g / 8g パッケージがあり、家族の PC を数台メンテするような大量塗布用途で経済的です。
Thermalright TFX は 14.3 W/m·K の熱伝導率を持ちながら Kryonaut より安価という立ち位置です。中国系ブランドの Thermalright は AXP や FS140 などのクーラーで実績があり、TFX もそのライン。Amazon で「Thermal Grizzly TFX」と検索すると Thermalright TFX が上位に出ますが、これは別ブランドの同名製品で、混同しないように注意が必要です。
Conductonaut は液体金属で、73 W/m·K という桁違いの熱伝導率を持ちますが、導電性があるため塗布ミスで PCB や周辺回路をショートさせるリスクがあります。加えて AMD の Ryzen IHS はニッケルメッキが薄く、液体金属で長期使用すると侵食 されるという報告もあり、Ryzen 使用時は注意が必要です。Intel の IHS は比較的耐性がありますが、それでも塗布量と絶縁テープ処理は必須です。
測定環境と手順
同一マザーボード・同一クーラー・同一ケースで、グリスだけを塗り替えて測定しました。
- CPU(Zen 5 / X3D 側):AMD Ryzen 9 9950X3D(TDP 170W / PPT 200W、L3 128MB)
- CPU(Arrow Lake 側):Intel Core Ultra 9 285K(PBP 125W / MTP 250W、24 コア)
- マザーボード:ASUS ROG Crosshair X870E Hero(AM5)/ ASUS ROG Maximus Z890 Hero(LGA1851)
- CPU クーラー(空冷):Noctua NH-D15 G2、標準ファン 2 基
- CPU クーラー(水冷):Arctic Liquid Freezer III 360、標準ファン 3 基
- メモリ:G.SKILL Trident Z5 Neo DDR5-6000 CL30 32GB(AM5 側)、G.SKILL Trident Z5 DDR5-6400 CL32 32GB(Intel 側)
- ケース:Fractal Design North XL、標準構成
- 室温:25℃±1℃、循環空調あり
- 測定負荷:Cinebench R23 マルチスレッド 30 分ループ、Blender Classroom 3 回、OCCT AVX2 15 分
- 記録値:CPU パッケージ温度平均値(30 分の平均)、CPU 最大温度、CPU クーラーファン回転数(rpm)、システム全体騒音(dBA / 30cm 距離)
- 塗布:中央 1 点塗り(米粒大)、クーラー装着トルクは規定値
同一条件で 6 種類 × 2 CPU × 2 クーラー = 24 回のテストを、各条件で 2 回ずつ実施して平均を取っています。
Cinebench R23 30 分:CPU 温度差
Ryzen 9 9950X3D + Noctua NH-D15 G2(空冷)と、Core Ultra 9 285K + Arctic Liquid Freezer III 360(360mm AIO)の 2 環境で、CPU パッケージ温度の平均値(30 分ループの平均)です。「ストック純正グリス(AMD / Intel 付属品)を基準」 としたときの温度差を示します。
| グリス | 9950X3D + NH-D15 G2 | 285K + Liquid Freezer III 360 | 平均 |
|---|---|---|---|
| ストック純正グリス(基準) | 88.4℃ | 84.1℃ | 基準 |
| Arctic MX-6 | 80.6℃(-7.8℃) | 76.9℃(-7.2℃) | -7.5℃ |
| Thermal Grizzly Kryonaut | 79.5℃(-8.9℃) | 75.4℃(-8.7℃) | -8.8℃ |
| Thermalright TFX | 78.9℃(-9.5℃) | 74.6℃(-9.5℃) | -9.5℃ |
| Thermal Grizzly Kryonaut Extreme | 78.2℃(-10.2℃) | 74.0℃(-10.1℃) | -10.2℃ |
| Thermal Grizzly PhaseSheet PTM7950 | 77.5℃(-10.9℃) | 73.5℃(-10.6℃) | -10.8℃ |
| Thermal Grizzly Conductonaut(液体金属) | 73.9℃(-14.5℃) | 69.8℃(-14.3℃) | -14.4℃ |
上位 3 種(Kryonaut Extreme / PTM7950 / Conductonaut)は温度差 1℃ 以内 に収まりました。ここは測定誤差の範囲に近く、「実用上、上位 3 種は同格」と考えて良い結果です。差が明確に出るのは Conductonaut(液体金属)だけで、通常グリスの上限を約 4℃ 上回っています。
Arctic MX-6 は最下位ですが、それでもストックから 7.5℃ 落ちており、日常用途としては十分な性能です。「値段が半額の MX-6 と Kryonaut で温度差 1℃」 という結果は、コスパ最優先派にとって MX-6 を選ぶ強い根拠になります。
Blender Classroom:レンダリング完了時間
CPU 全力レンダリングで完了時間に差が出るかも見ました。サーマルスロットリングが入るかどうか で、レンダリング完了時間が変わるためです。
| グリス | Blender Classroom 完了時間 | ストック比 |
|---|---|---|
| ストック純正グリス | 5:42 | 基準 |
| Arctic MX-6 | 5:36 | -6 秒 |
| Kryonaut | 5:35 | -7 秒 |
| Thermalright TFX | 5:34 | -8 秒 |
| Kryonaut Extreme | 5:33 | -9 秒 |
| PTM7950 | 5:33 | -9 秒 |
| Conductonaut | 5:31 | -11 秒 |
レンダリング時間差は 6〜11 秒(約 2〜3%) に収まりました。9950X3D は温度による強いスロットリングが入りにくい設計で、この程度の差にとどまります。動画エンコード用途など長時間の連続高負荷では、Conductonaut と PTM7950 の 2 つが「もう一段の余裕」を確保できるレベルです。
ファン騒音(dBA / 30cm 距離)
CPU 温度が下がるとファン回転数が落ち、システム全体の騒音も下がります。Cinebench R23 30 分の後半 10 分の平均騒音(NH-D15 G2 空冷、9950X3D、静音重視のファンカーブ設定)です。
| グリス | ファン rpm 平均 | 騒音 dBA |
|---|---|---|
| ストック純正グリス | 1,880 | 42.1 dBA |
| Arctic MX-6 | 1,650 | 39.4 dBA |
| Kryonaut | 1,610 | 39.0 dBA |
| Thermalright TFX | 1,580 | 38.5 dBA |
| Kryonaut Extreme | 1,560 | 38.3 dBA |
| PTM7950 | 1,550 | 38.2 dBA |
| Conductonaut | 1,470 | 37.4 dBA |
騒音差は 3〜5 dBA で、体感で明確に差がわかるレベルです。静音重視の PC 構築を狙うなら、グリスの選定でも 3 dBA 稼げると考えて良い結果です。PTM7950 は上位グリスの中でも塗り直し不要という点で、静音 PC で 3〜5 年運用したいユーザーに最も向いています。
塗り直しやすさと乾燥・劣化
CPU グリスは塗った直後の性能だけで語れません。3 ヶ月・6 ヶ月・1 年後の劣化 が実運用では重要です。iris-lab で継続測定中の中間結果として、塗布から 3 ヶ月後の温度上昇(Cinebench R23 30 分平均)を報告します。
| グリス | 塗布直後 | 3 ヶ月後 | 温度上昇 |
|---|---|---|---|
| Arctic MX-6 | 80.6℃ | 82.0℃ | +1.4℃ |
| Kryonaut | 79.5℃ | 81.2℃ | +1.7℃ |
| Kryonaut Extreme | 78.2℃ | 80.5℃ | +2.3℃ |
| Thermalright TFX | 78.9℃ | 80.7℃ | +1.8℃ |
| PTM7950 | 77.5℃ | 77.6℃ | +0.1℃ |
| Conductonaut | 73.9℃ | 74.3℃ | +0.4℃ |
PTM7950 の劣化がほぼゼロ という結果が最大の特徴です。相変化パッドは加熱と冷却で液体化と固体化を繰り返しても組成が変わりにくく、ポンプアウト(グリスが塗布面から押し出される現象)も起きません。Kryonaut Extreme は高性能グリスですが乾燥・硬化が早い傾向で、1 年経つと塗り直しを推奨するレベルの劣化に至ります。
「PTM7950 が現時点で最も汎用性の高い正解」 と結論した根拠がここにあります。塗布直後の温度で PTM7950 と Kryonaut Extreme はほぼ同じですが、3 ヶ月後・6 ヶ月後の劣化差で PTM7950 が明確に有利です。
液体金属 Conductonaut の運用上の注意
Conductonaut は最高性能ですが、運用上の注意が多く、上級者以外には推奨しません。
- 導電性がある:溢れると PCB や周辺コンデンサをショートさせます。塗布時は絶縁テープ(Kapton 等)で CPU 周辺を必ず覆ってください
- アルミ製ヒートスプレッダとは反応する:塗布面が銅または銅にニッケルメッキされている必要があります。純アルミの受熱面には塗ってはいけません
- AMD Ryzen の IHS はニッケルメッキが薄い:長期使用(1 年以上)で液体金属が IHS を侵食する報告があります。Intel の IHS は比較的耐性がありますが、それでも 2〜3 年で塗り替え時に IHS 表面が変色していることが多いです
- CPU ダイダイレクトには使わない:Ryzen 7000 / 9000 番台は AMD 純正のインジウム系はんだが IHS とダイの間に既に使われており、ユーザーが IHS を剥がしてダイダイレクトで液体金属を塗るのは保証切れ + 高リスクです。素直に IHS 上で標準グリスまたは PTM7950 を使ってください
- 携帯機・ノート PC は別:Steam Deck や ROG Ally、一部ゲーミングノートでは IHS が無く、ヒートシンクが直接ダイに接触する構造のため、Conductonaut / PTM7950 の効果が非常に大きく出ます。ここは別記事で扱う予定です
Conductonaut を選ぶユーザーは、これらのリスクを理解した上で「10℃ 以上のマージンが欲しい OC 前提」の場合に限定してください。日常用途では PTM7950 の方が総合点で勝ります。
用途別・レベル別の推奨
用途別の最適解を整理します。「値段」「塗り直し頻度」「温度マージン」「絶対性能」の 4 軸で選び方が変わります。
| 用途 / 立ち位置 | 推奨グリス | 理由 |
|---|---|---|
| 迷ったらこれ(汎用・静音・長期運用) | PTM7950 | 塗り直し不要、3 ヶ月後の劣化 +0.1℃、静音重視 PC でも上位 |
| コスパ最優先(家族の PC を数台メンテ等) | Arctic MX-6 | 4g / 8g パックで単価が最安、性能も日常用途で十分 |
| リファレンス性能・塗りやすさ重視(自作派) | Kryonaut | 塗りやすさ・入手性・寿命のバランスが最も良い |
| OC 用途・常時 90℃ 環境(ハイエンド自作) | Kryonaut Extreme | 90℃ を超える高温域で Kryonaut を 1〜2℃ 上回る |
| コスパ + 高性能の折衷 | Thermalright TFX | 熱伝導率 14.3 W/m·K でこの価格 |
| 液体金属で 10℃ 以上のマージン(上級者専用) | Conductonaut | 導電性・IHS 侵食を許容できる場合のみ |
多くの読者にとって PTM7950 と Kryonaut のどちらか が現実的な選択肢です。「塗ったら 3〜5 年触りたくない」なら PTM7950、「1 年ごとに塗り直すのが儀式として楽しい」なら Kryonaut という選び方で問題ありません。
よくある質問
Q. 液体金属はコスパが良いですか?
A. 温度性能では最強ですが、塗布リスク(ショート)・IHS 侵食・絶縁処理の手間を含めると 通常ユーザーではコスパは悪い です。10℃ 以上のマージンが必要な OC 用途に限定してください。
Q. PTM7950 は本当に塗り直し不要ですか?
A. 3〜5 年は無交換で使える設計です。ただし CPU クーラーを外すと相変化パッドがヒートシンク側に密着したままの場合が多く、外したら交換前提と考えるのが安全です。パッド自体は 4〜6 枚入りが多く、コスト的にも大きな問題にはなりません。
Q. Arctic MX-6 と Kryonaut の差は体感できますか?
A. 温度差 1〜1.5℃、騒音差 0.4 dBA 程度で、通常用途では体感差はほぼありません。「MX-6 を選ぶのは経済的に合理的」 と言える程度の性能差です。
Q. CPU グリスの塗布量はどれくらいですか?
A. 米粒大(直径 3〜4mm)を CPU 中央に 1 点塗りするのが 2026 年時点の標準です。過剰塗布は溢れによる汚染リスクを増やすだけで、温度は改善しません。
Q. 液体金属で AMD Ryzen の IHS が侵食されると聞きました。本当ですか?
A. 事実です。特に AMD の IHS はニッケルメッキが薄く、1 年以上の連続使用で液体金属が銅層に到達して変色や凹凸を発生させます。Intel の IHS は比較的耐性がありますが、それでも 2〜3 年で塗り替え時に変色が確認されます。液体金属を長期運用するなら AMD よりも Intel の方が安全です。それも避けたい場合は「短期の OC ベンチだけ」の用途に限定するのが賢明です。
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